No.96
がん細胞の生存や転移を抑える化合物を発見!
待たれる難治性がんに対する有効治療薬
年間30万人以上もの命を奪う「がん」はわが国死因の第一位として、対策が急務となっています。なかでも遺伝子の突然変異による膵臓がんや大腸がんなどの難治性がんはがん全体の3分の1を占めますが、これまで有効な治療薬を開発することはできませんでした。
このたび九州大をはじめとする研究グループは、難治性のがんの生存や転移に重要な役割を果たすタンパク質を突き止め、米科学誌「セル・リポーツ」(5月2日付電子版)に論文を掲載しました。
研究グループによると、「Ras」という遺伝子の突然変異によるがんの増殖や転移などは細胞の形態変化を促す「Rac」という分子の活性化が原因といいます。しかし、これまでこのRac を活性化する原因となる分子を見つけ出すことができずに、この種のがんに対する有効な治療薬の開発は失敗に終わっていました。
白血球減少などの副作用もなし。夢の新薬開発へ
研究チームはRacを活性化させる分子として、がん細胞内の「DOCK1」というタンパク質に注目。遺伝子操作によってDOCK1の発現を抑えたところ、がん細胞による細胞外からの栄養の取り込み力が著しく低下し、生存力や周辺組織への浸潤力も著しく低下しました。
この結果、DOCK1がRac を活性化させることによって、がん細胞の生存や転移に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
さらに、研究チームはRacの活性化を防ぐため、約20万を超える化合物の中からDOCK1の活動を選択的に阻害する働きを持つ化合物として「TBOPP」を発見。マウスに投与したところ、これまたがん細胞の生存力や周辺組織への浸潤力が著しく低下。さらに抗がん剤にありがちな免疫細胞白血球の減少といった副作用もないことが確認されました。
この成果により、副作用の内抗難治性がん剤の開発につながる可能性が示唆され、研究グループでは新治療薬を数年内に開発したいと意気込んでいます。