致死率3割。高熱を発し、手足が赤く腫れて壊死
「人食いバクテリア」と呼ばれる細菌の引き起こす「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」に感染した患者数が、今年8月末時点で299人を記録。これまでもっとも多かった昨年1年間の273人を超え、これまでで最多となりました。
人食いバクテリアによる感染症は1987年に米国ではじめて発見され、わが国では92年にはじめて報告されました。調査が開始された1999年以後のわが国の患者数は2000年代前半までは毎年50人前後でしたが、その後100人前後に増加。2012年以降は毎年200人以上が報告されています。
人食いバクテリアと言われるのは主に「A型溶血性レンサ球菌」という細菌で、腸炎ビブリオ菌の一種である「ビブリオ・ブルニフィカス」も似たような症状を引き起こします。A型溶血性レンサ球菌に感染するのは主に子どもが多く、喉などに感染して咽頭炎やとびひ、皮膚炎などを発症しますが、通常は抗菌薬による治療が可能で、感染したまま発症しないことも珍しくありません。
急速に症状が悪化してやむなく手足切断
ところが、問題なのは傷口などからA型溶血性レンサ球菌に感染した場合、まれに劇症化することがあるということです。万一劇症化すると、細菌が凄まじいスピードで増殖して、血流に乗って全身に回り、症状があっという間に進行してしまいます。
最初は発熱、手足の痛みや腫れなどを感じますが、瞬く間に悪化して38度以上の高熱を発し、手足が赤く腫れあがって壊死したり、多臓器不全などを引き起こします。体の免疫機能がなぜか働かないために菌の増殖スピードはすさまじく、抗菌薬の効果が出る前にどんどん壊死が広がるため、進行を食い止めるには手足を切断するしかありません。そして、最悪の場合は意識障害に陥って、発症から数日以内に死亡。過去三年間の感染者712人のうち207人が亡くなっており、致死率は30%にも達します。
劇症化する患者は30代以上がほとんどで、高齢者が多く、生活習慣病やがんなどの持病を持つ人が多いことが明らかになっていますが、持病を持たない人も少なくありません。
人食いバクテリアによる感染症がなぜ劇症化するかについては、ある種の遺伝子を持つ菌が毒性物質を作って免疫細胞を攻撃し、免疫機能を低下させることで急速に増殖。劇症化を起こすケースが多いことが分かっていますが、現時点では明らかなメカニズムは判明しておらず、有効な治療法はいまだにないのが現状なのです。