No.57
アルツハイマー病の新遺伝子治療法を開発
「運び屋ウイルス」を使った遺伝子治療
アルツハイマー病は加齢に伴って脳内に「アミロイドβ」という異常たんぱく質が蓄積することで引き起こされます。しかし、老年期認知症の大半を占めるといわれるアルツハイマー病の治療には、神経伝達物質の分解酵素を阻害する薬剤などが用いられているものの、あくまで対症療法であり、根治に至る治療法はいまだに開発されていません。
脳内のアミロイドβの蓄積は、アミロイドβを分解する「ネプリライシン」と呼ばれる酵素が加齢とともに減少することが原因と考えられており、この酵素を増やすことができれば根治につながります。そのため、現在「運び屋ウイルス」(遺伝子を運ぶウイルス)を使った遺伝子治療が臨床的に試みられていますが、頭蓋骨に穴を開けて脳内にウイルスを注入する手術が必要なため、手間がかかるとともに広範な脳領域への注入が難しいという欠点がありました。
血管に投与するだけで遺伝子治療が可能に
そんな中、理化学研究所と長崎大学の研究グループは、脳以外の血管に投与しても脳内に入り込むことができ、しかも脳内の神経細胞だけに治療用遺伝子を働かせる運び屋ウイルスを開発。このウイルスにネプリライシンの遺伝子を組み込んで、アルツハイマー病のマウスの血管に投与したところ、投与遺伝子が脳内だけで働くとともに、脳内の酵素活性も上昇。これによって脳内のアミロイドβが顕著に減少したほか、認知機能も回復することが確認されました。
今回開発された遺伝子治療は、外科的手術の必要がなくなることで従来より格段に簡易に治療できるとともに、これまで困難だった脳全体への遺伝子投与も可能となる画期的なものです。
しかも、ネプリライシン遺伝子の投与による異常も認められなかったことで、安全面でも好結果。アルツハイマー病の根治療法が存在しない現状において、若年型も含めたすべてのアルツハイマー病の予防・治療法となる可能性を秘めており、大量生産などの技術面や安全面などの問題が解決されれば、根治療法につながる希望の星として一日も早い臨床応用が望まれています。