加齢とともに血液中で増加して老化を促進
年は誰しも取りたくないもの。でも、もしその原因が明らかになれば、加齢現象を少しでも抑える方法を発見できるかもしれません。
そんな夢の実現に役立つかもしれない発見が米科学雑誌で発表されました。発表したのは大阪大の研究グループ。千葉大、北大、英米大との共同研究による成果で、加齢とともに血液中で増加して老化を促進する物質を実験で特定できたというのです。
その物質は「C1q」と呼ばれる血中のたんぱく質です。わたしたちの体には体内に侵入した異物や細菌などから体を防御するために、抗体によって活性化する「補体」と呼ばれる血中タンパク質の一群が存在します。その補体のうちでもまっ先に侵入者に反応する「C1」と呼ばれるタンパク質は、血液中で異物と結合することで他の補体の活性化を促して、侵入者を排除する役割を担っています。
研究グループによるマウスを使った実験では、高齢のマウスや心不全のマウスでは、C1の一種であるC1qが若いマウスに比べて血液やさまざまな組織内で増加していて、細胞老化を引き起こす「Wntシグナル」と呼ばれる現象を活性化していることが明らかになりました。
老化に伴う疾患の予防治療に期待
高齢のマウスの筋肉は繊維化が進んで衰えていますが、実験では高齢のマウスのC1qを消去すると、筋肉細胞が再生されて繊維化した部分が若いマウスのように少なくなることも確認されました。
一方、若いマウスにC1qを投与すると、Wntシグナルが活性化して、筋肉の繊維化が進み、筋力低下などの老化現象を引き起こすことも確認できたといいます。
Wntシグナルが異常に活性化すると、動脈硬化などの生活習慣病、心不全、がん、腎臓病、呼吸器疾患などの、細胞老化が引き起こすさまざまな疾患の要因となることはこれまでにも明らかになっていましたが、今回C1qがWntシグナルを活性化して細胞老化現象を引き起こすが明らかになったことから、C1qが老化に伴う疾患の原因になっている可能性が示唆されました。
今回の実験結果から、C1qによるWntシグナルの活性化を防止するために、C1qを標的にした薬を開発できれば、生活習慣病やがんなどの老化が引き起こす疾患の予防や治療につながる可能性があると、関係者の期待が高まっています。